●第2号(1996/12/25)――【7面】◆名医が説く本物の漢方医学を会得する心得
![]() 東亜医学協会常任理事 医学博士 矢数圭堂氏 1931(昭和6)年東京生まれ。 漢方医学復興の第一人者である矢数道明氏の長男として漢方医学を継承。専門は薬理学。 1957年 東京医科大学卒業。恩師原三郎教授が開いた同大薬理学教室にとどまり、研鑽を積む。 1966年 東京医科大学を辞し、温知堂矢数医院で診療に取り組む。 現在、温知堂矢数医院副委員長、東亜医学協会常任理事、日本東洋医学会評議員、北里研究所東洋医学総合研究所客員部長、昭和大学医学部第一薬理学非常勤講師を兼任。多忙な日々を送る。 |
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温知堂・矢数医院・矢数圭堂先生が語る「漢方医学の会得方法」 伯父に矢数格氏、父に矢数道明氏(注1)を持つ矢数圭堂氏。後世方漢方の大家の家系に生まれ育ちながら、考え方はいたって発展的。 流派にこだわらず、さまざまな視点から漢方を学び、西洋医学とのバランスも考慮する。漢方医学を会得するための心得、現代医学の中での漢方医療のあり方、漢方医学教育についての独自の考え方を聞いた。 (聞き手:太田聡) ●自分自身で技術修得する ── 漢方医学を学ぶ上において、特に重要視しなければならないことや、コツのようなものはありますか。矢数道明氏は、門下生にどのようにポイントを伝授していたのでしょうか。 矢数 当時、改装前の温知会(注2)の2階座敷で、他の門下生らと一緒に漢方医学についての指導を受けたのですが、実は父(矢数道明氏)からは、長男だからといって特別細かい指導を受けたわけではないのです。どちらかというとやっていることを見ているだけの方が多い。私自身は東京医科大学に進み、そこで原三郎先生(注3)に漢方医学を学びました。また、大塚先生(注4)の自宅で開かれていた傷寒論の講義に出席したり、中将湯医薬研究所(注5)や漢方友の会(注6)などに出入りして、自分で知識を習得していったのです。ただし、私の場合は父が出張しているときなど、当時から代わりに患者さんに対応していたのですが、患者さんのカルテを見て、父がどのような処方をしていたか実地で学ぶことができました。 ── それでは矢数先生が考える、漢方医学を会得するための心得とはどんなものでしょうか。 矢数 特別なことはないと思います。いろいろなセミナーや講演会など、いまでは頻繁に開かれていますから、そのようなところにとにかく足を運んで学ぶことでしょう。本はたくさんでていますが、傷寒論や金匱要略といった古典を読む方がよいと思っています。その上で、セミナーなどに足を運んで最新の知識を仕入れる、というのが良いのではないでしょうか。なぜかというと、漢方医学にはさまざまな流派のようなものがあり、それはよく言われる古方や後世方だけではありません。また、例えば古方なら、後世方に比べて薬の量が少なくて済むなどの違いがあり、一概にどれがいいといえるものではありません。私の場合は、父が後世方といわれる流れの権威だったために、今は後世方が中心になっていますが、あまり流派にはこだわらず、さまざまなものを学びました。一度基本を勉強してから、自分なりのものを確立していくことがいいでしょう。それには基本中の基本、流派を越えた古典である傷寒論などがよいというわけです。 ●西洋医学と東洋医学のバランス ── 漢方医学を学ぶ上で、西洋医学を忘れて、一から漢方医学を学べといわれます。やはり先生も同じ考えでしょうか。 矢数 父が森先生(注7)の門下生の時、「漢方医学をやるからには(それまで学んだ漢方以外の医学の)既成概念を捨てて、一から医学を学ぶつもりでやりなさい。(西洋医学との)兼業なら破門」といわれたそうです。私はそこまではいいませんが、西洋医学的知識は一旦忘れて、漢方医学を学ぶべきでしょう。漢方医学をある程度会得した後で、西洋医学的知識と両方をさらに学ぶということが大事です。 ── 漢方医学と西洋医学の両立というのは可能なのでしょうか。 矢数 バランスの問題ではないでしょうか。現代の医学では、西洋医学的観点を全く捨てるということはできないでしょう。外科的手術が必要な病気もありますし、また、矢数医院でも、疾病の進行状態を見るのに、検尿などの検査は欠かせません。一方、漢方医学は慢性病に対する医学と思われがちですが、一服で効くケースも決して希ではありません。証がぴったりと合っていれば、場合によっては西洋薬と変わらない速効的効果が期待できます。 また、一般に漢方薬は証を決定して処方しますが、対症療法的な使い方も、多くはありませんが一部にあります。しもやけなら当帰四逆加呉茱萸生姜湯(注8)というのは漢方医ならだれでも知っている常識です。 外科治療なら西洋医学、病名がわからないものが漢方医学、また、即効性の西洋薬、万病の漢方薬という一元的な区別の方法がそもそも意味をなさないものなのです。 これらは、一人の医師がそれぞれをよく理解していることがなによりで、バランスが大切です。 ●漢方医学を現代医療に生かすには ── それでは、漢方医学と西洋医学の融合ということも可能でしょうか。 矢数 融合というと語弊があります。それぞれの医学の特徴をとらえた上で、最善の治療を施すということはできるでしょうが、そもそも成り立ち方が異なっており、難しいことだと思います。 ── 現在は、優れた漢方医学を学べるチャンスが限られています。医療の現場でもっと広範に漢方医学が生かされるのには、どのようにしたらよいとお考えでしょうか。 矢数 私どもの頃は特に、(漢方医学の)指導者が開業医に限られていました。時間も限られており、指導できる人数も多くはありません。また、優れた技術はあっても指導のテクニックが優れているとは限りません。民間の指導講座もたくさんできてきましたが、現状はそうは変わっていないのではないでしょうか。やはり、大学など医学教育の場での教育を充実する必要があるでしょう。現在では富山医科薬科大学(注9)をはじめ、いくつかの大学で講座が開かれていますが、もっと広めるためには、我々のような立場の人間が運動を起こしていかなければならないのでしょう。 |