●第3号(1997/1/25)――【3面】
「第29回日本漢方交流会全国学術総会・京都大会」(2)

ストレス症候群に
漢方医学が有効に作用


大会プログラム

【特別講演】
◆「日本漢方の歩みと薬局漢方の展望」
国際東洋医学会会頭 坂口弘氏
◆「正倉院薬物について」
東京大学名誉教授 柴田承二氏

【会員発表】
(1)ストレスによる全身の自律神経失調症(第2号・2頁)
近畿鍼灸漢方研究会・かんぽう会 川邊隆子氏

(2)気力が無く眠くて仕方がない症状に対する真武湯の有用性(第2号・2頁)
高松漢方研究会 真鍋立夫氏

(3)更年期障害と便秘(第2号・2頁)
京都漢方研究会 高橋幸男氏

(4)「百合病」と百合を使用した治験に関する考察
東京漢方教育センター 三宅仁一氏ほか

(5)阪神・淡路大震災におけるストレスと漢方による治療経験
東京漢方教育センター 辻内琢也氏

(6)気は病から −ストレスとこころとからだの考察−
日中医薬研究会関西支部 田中英樹氏ほか

(7)ストレス症候群に対する漢方について
−無形の「気」を有形の「水気、血気」に−
日中医薬研究会関西支部 毎原昭子氏ほか

(8)気剤「香蘇散」の効果とその活用範囲の拡大
広島漢方研究会 小林宏氏

(9)ストレス社会の副産物
広島漢方研究会 桃原泰誠氏

(10)登校拒否の女性の2例について
かんぽう会 村上清尚氏

(11)精神的ストレスによる糖尿病とその併病の十二脂腸潰瘍、胆石、腎臓結石、視力低下、全身のおできなどを一服の煎じ薬をきっかけに完治した実例
東海漢方協議会 苅谷賢治氏

(12)「ストレスと鍼灸治療」(紙上発表)
かんぽう会 山本恵美子氏

【シンポジウム】
◆「民間薬の臨床応用」
前日本東洋医学会民間薬調査委員長 松下嘉一氏
◆「民間薬の供給と品質」
大阪大学薬学部助教授 米田該典氏
◆「民間薬の科学的評価」
(財)生産開発科学研究所天然薬物資源開発研究室室長 山原條二氏
◆「民間薬の薬局店頭での臨床治験と今後の課題」
日本漢方交流会学術委員会民間薬部門長 近藤繁子氏


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 1996年11月30日〜12月1日開催、日本漢方交流会主催「第29回日本漢方交流会全国学術総会京都大会」講演要旨のつづき。(太田聡)





(前号よりつづき)

◆治癒例(5)

阪神・淡路大震災におけるストレスと漢方による治療経験
●東京漢方教育センター 辻内琢也氏発表


少ない自覚症状を統計解析
分類による漢方診断を実践


【序文】
 神戸市灘区の小学校で、震災直後より内科・心療内科医として診療を行う。1週間の内に男女80人に対して診察。その結果をまとめた。

【分類・傾向】
 問診カードに11項目の身体症状と、9項目の精神症状を設定し、各自各症状に対して「ある、少しある、ない」の3段階の回答を求めた。結果をデータとし、症状の似たものを分類して、それぞれのグループをさらに結びつきの近い順に分類化した。この結果、身体症状を主症状とするグループ、精神症状を主症状とするグループなど18グループ、8カテゴリーに分けられ、とくに、精神症状を併せ持つグループに漢方薬が奏功した。

【使用した漢方薬】
 補中益気湯、加味逍遥散、清肺湯、小柴胡湯、麦門湯、桔梗石膏、葛根湯、十全大補湯、柴胡桂枝湯、六君子湯の順に多く使った。全般的に虚証向きの補剤が多かった。

【考察】
 それぞれの分類に、処方した漢方薬が奏功した各グループの主症状の組み合わせを元に、気血水の病態診断を試みてみると、それぞれの症状から推定される病態診断に相応した処方が投与されていることが確認できた。これにより、数少ない自覚症状の問診でも、ある程度妥当性のある漢方処方を選択できる可能性のあることが示唆された。

【代表的症例】
 54歳男性、清掃業、自宅は全壊。
主訴:胸痛、全身倦怠感、意欲の低下
既往歴:胃十二指腸潰瘍、低血圧症、心臓神経症。
自覚症状:かぜ症状、食欲不振、頭痛、めまい、易疲労、イライラ、希死念慮、おっくう、ドキッとする、悪夢。
診断:ストレスによる胸痛、感冒の遷延化、抑うつ状態、ASDあるいはPTSDが疑われた。漢方的に気虚・水毒・少陰病期と考えられた。
治療経過:補中益気湯エキス顆粒7.5g、清肺湯エキス顆粒5.0gを投与。2日後に咳の症状が改善。外出できるようになった。





◆治癒例(7)

ストレス症候群に対する漢方について −無形の「気」を有形の「水気、血気」に−
●日中医薬研究会関西支部 毎原昭子氏、岡崎幸子氏、渡邊武氏発表


ストレス症候群105例を分類。水滞の改善にカギ

【序文】
 ストレスに起因したと考えられる105症例を疾患毎に10分類し、原因となっている血滞、水滞を解析し、それを取り除くための方証一致の原理から方剤を決定し、ストレスの解消を試みた。

【総論】
 ストレス症候群は水滞証を主流としている。主訴を原因的に分類すると水証(1.9):血証(1.7):気証(1)となり、使用法剤の薬味数も水剤(1.7):血剤(1.5):気剤(1)と同様の比率を示した。

【具体症例】
概況:30歳男性。身長180p、体重66s。転勤によるストレスで食欲不振、不眠、頭重。痩せていき、出社困難。
使用した方剤:全体を水滞をとることに目標を定め、まず、へそが縦型なことから腹直筋の緊張を判断し、この改善のため芍薬の多い桂枝加芍薬湯を選んだ。
 みぞおちの圧痛を認めたため、人参剤の中から、特に利水の薬味が多い六君子湯を使用。
 舌裏の怒張から、冷えからくる於血(注1)と判断。桂枝茯苓丸と意苡仁(注2)を加えた。
経過:3日後に症状の改善が見られ(食欲が回復した模様)、3ヶ月後には全ての症状が改善。6ヶ月まで服用し、その後食事指導に切り替える。

【注1】意苡仁:ヨク・イ・ニンのヨクは正しくは「くさかんむり」に「意」。 【注2】於血:オ・ケツのオは正しくは「やまいだれ」に「於」。





◆治癒例(8)

気剤「香蘇散」の効果とその活用範囲の拡大
●広島漢方研究会 小林宏氏発表


精神安定剤が効かないという患者
香蘇散を中心とした処方を試みる


【概況】
 48歳男性。来局2年前より体調の不調を感じる。胸の切ない感じ、気分の悪さ、集中力がないなど。人事異動で配置転換になったためのストレスと見られる。出社拒否になり、病院で鬱症と診断。当局には入院中の病院より外出許可を取って来た。
 ストレスに対応する気剤として以前から注目していた香蘇散を中心に使ってみることにした。

【経過】
2月 香蘇散合小柴胡湯(3:2)20日分ずつをなくなる毎に投与。(入院中のため、主治医との相談の上服用する)
4月 8日より職場復帰、症状良好。
6月 胸の症状、イライラは取れたがガスのにおいが悪い、便の出が悪いとのこと。六君子湯合香蘇散(3:2)20日分を使用。
7月 以前のような発作がでかかったとのことで香蘇散の割合を元に戻す。香蘇散合六君子湯(3:2)を使用。
8月 頭の重い感じを除いて症状は全て改善
香蘇散のみを投与。現在継続中。





◆治癒例(9)

ストレス社会の副産物
●広島漢方研究会 桃原泰誠氏発表


ストレス性の鼻炎と思われる患者に奏功した事例

【概況】
 33歳男性。4〜5年前から鼻炎に。鼻が重たい、首筋から肩にかけて強い凝り。頭痛。仕事が忙しく夜も遅い、食生活も不規則。プライベートなつき合いに乏しく、人との接触を拒むようになった、と本人。

【診断】
 舌診−水毒痕、胸脇苦満あり、小便に勢いがない、やや便秘、手のひら月丘に斑点様の湿疹。仕事のストレスによる心理失調をきたし、心煩、動悸、浅い眠り、多夢などの症状と判断。(腎が虚して心が熱した状態)

【経過】
 柴胡加竜骨牡蠣湯を使用。2週間後、本人が驚くほど小便の勢いが良くなった。鼻炎症状はやや良い。1ヶ月後、頭が軽くなったと本人。さらに半年間服用して廃薬。





◆治癒例(10)

登校拒否の女性の2例について
●かんぽう会 村上清尚氏発表


登校拒否の若い女性の例
甘麦大棗散で精神が安定


【症例1概況】
 16歳女性。14歳頃から頭がぼーとして、頭痛、無気力、頭がすっきりしないなどの症状があり、やがて登校拒否に。食事の摂取にむらがあり、普段部屋に閉じこもりがち。

【治療】
 まず体を立て直すため、弱っていると見られる脾気の回復を目指し甘麦大棗湯(煎剤)を使用。精神不安がなくなった。心下支結、胃の痛み、胆気虚寒の証があり、脾肝不和による精神症状と判断。柴胡桂枝湯エキスを併用する。体の状態がかなり良くなり、閉じこもりがちであったのが徐々に外向きに。治療継続中。

【症例2概況】
 18歳女性。喉の異物感があり、元気がない、足の冷えがひどく眠れないほど。

【治療】
 心気が虚損して、気が滞り、梅核気にあると判断。人参湯エキス、半夏厚朴湯エキスを使用。喉の異物感は取れたが、元気がなく、発作的に倒れるときがあるとのこと。調べてみると、併用して服用している新薬に問題がある可能性が見えたので、新薬の服用を中止するように助言。以後倒れることはなくなったが病状は一進一退。悲傷で泣き出すときには、甘麦大棗湯を与えると改善されるため、様子を見ながら併用。治療継続中。





◆治癒例(11)

精神的ストレスによる糖尿病とその併病の十二脂腸潰瘍、胆石、腎臓結石、視力低下、全身のおできなどを一服の煎じ薬をきっかけに完治した実例
●東海漢方協議会 苅谷賢治氏発表


漢方で全身の疾患が完治。ストレスで荒廃した心まで変えた

【概況】
31歳男性(発表者本人)。若いときから仕事が忙しく、アルコールを飲む機会も多かった。24歳で若年性糖尿病と診断され、以後、十二指腸潰瘍、胆石(28歳の時摘出済み)、尿道結石、視力低下、右下腹10p大のおでき(切除済み)と次々に併発。さらに、背中、おしりにも同様のおできが出来、共に手術で切除。漢方の勉強をしていたが信じる気になれず、使用を手控えてきたが、4つ目のおできが出来たときに、病院で手術するのはイヤになり、煎じ薬を作ってもらう。

【治療】
 右胸に4つ目のおでき、直径10pぐらいで、赤く腫れ、熱を持って痛く、首、肩の凝りがひどい。処方してもらった十味敗毒湯を服用して3〜4時間後痛みが和らぎ楽になり、服用する毎に腫れ、痛みが引いていく。3日間服用し完治。
(この後、発表者はあまりの効果に開眼し、自暴自棄になりかけていた自分を発見。生活習慣を改め、ついには脱サラして本格的に漢方の道に進む。「治らなければお金を返す」と公言して漢方薬局を開き、最初の一年はほとんどお金を返し、生活費はアルバイトでまかなう生活。赤字が続いて一年後、だんだんと治る例が増え、徐々に認知を広げ、病気が治った患者さんから感謝されることがなによりもうれしいという日々。心まで変えた漢方の恩返しに、病気に苦しむ人を一人でも多く救ってあげたいという)





◆治癒例(12)

「ストレスと鍼灸治療」(紙上発表)
●かんぽう会 山本恵美子氏発表


鍼治療により、ストレス性の胃炎
女性の不定愁訴を治療した例


【症例1概況】 36歳男性。慢性胃炎、胃潰瘍。医が激しく痛み、精神不安、強迫、ミスが多く、夜眠れない。肩が酷く凝る。生まれ育った千葉県から、大阪府の旅館に婿に入る。生活の変化に順応できず、旅館を離れ義母の援助でインテリア設計のオフィスを開設するが、業務は不調で、精神的ストレスがたまったと見られる。

【治療】
 置鍼:中月完、手三里(浅刺)。灸頭鍼:脾兪、腎兪。知熱灸:足三里、膈兪、失眠。耳穴:神門、胃、(銀粒貼付)。

【経過】
 初心時は、初めての針治療で恐怖感があったため、軽度にとどめる、楽になったという。その後、検査をかねて入院するが、かえってストレスを助長。再び来診し、月3回づつ針治療。7月までには体重も増え、胃の症状も良くなった。

【症例2概況】
 28歳女性。OL。胃が張って痛む、頭痛、頚凝、月経不調、下腿浮腫。上司と会わず(セクハラ)、ノルマもあるなど、仕事上の悩みが鬱積している模様。

【治療】
 置鍼:中月完、大衝。灸頭鍼:天樞、子宮、碑兪、大腸兪、腰兪。知熱灸:三陰交、期門、膏盲、委中。耳穴:胃、交感、(銀粒貼付)。

【経過】
 3月から毎週来診し、初夏には月経も整い、軽快して、その後転勤した。





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