●第3号(1997/1/25)――【8面】◆臨床最前線
漢方による20年間アトピー治療の集大成
アオキクリニック
二宮文乃医師に聞く
臨床最前線


二宮文乃(ニノミヤフミノ)医師
1950年東邦大学医学部卒業
1962年まで東京警察病院皮膚科・形成外科研修医
1963年熱海市で開業
医学博士
日本皮膚科学会専門医
日本形成外科学会認定医
日本東洋医学会指導医・評議員
日本臨床皮膚科学会南関東静岡支部理事長
日本プライマリケア学会認定医








●アトピー性皮膚炎の特長
●漢方による診断のポイント
●治癒のポイント

本文

◆臨床例
【症例1:幼児】5歳女児
【症例2:小児】9歳男児
【症例3:成人】20歳女性
【症例4:成人】27歳男性

◆表
アトピー性皮膚炎の年齢別症状のエキス剤治療









↓写真は二宮氏が手がけた3歳男児の例

●治療前:

 全身に乾燥性皮膚炎、顔面に痂皮、糜爛(ビラン)を伴う湿潤性皮膚炎が見られる。アトピー性皮膚炎の極型的症状。おとなしく、いじめられやすい性質の上、皮膚炎がさらにいじめの原因になるのも共通している。概して小食、偏食気味。


●治療後:

 痒みもなくなり、症状が回復。幼稚園をやめ、いじめから解放されたのも好転した要因。食欲も旺盛になり、偏食が減った。症状の治療とともに、ストレスの根元の究明と排除、アレルゲンの特定と排除を行うことが治癒への近道である。




●アオキクリニック二宮文乃氏は96年に、長年の臨床結果を基に「アトピー性皮膚炎の漢方診療マニュアル」をまとめた。
各年齢、症状による証の決定、使った製剤と投与した理由、また投与のタイミングのポイントをチャート式に解説するなど実用に富む。
●発行は現代出版プランニング(電話03-3396-7709)
定価12,000円。



line.gif  ただの皮膚炎というなかれ。風邪を引きやすくなったり、さまざまな皮膚炎を合併して引き起こす。重症だと白内障や網膜剥離を併発することも。
 治療法は確立されておらず、ステロイド過剰で内臓疾患にかかったり、より悪化する例も少なくない。命に別状はなくとも、酷い痒みで夜も眠れず、通勤・通学もままならない。長患いで極度のストレスを起こし、抑鬱症にもなる深刻な病気だ。
 漢方薬が有効なのは分かっているが、正確に証に乗っ取って処方し、かつ、保険診療で行う医院は少ない。
 今回は熱海市で20年以上にわたって漢方によるアトピー性皮膚炎の治療を実践し、薬価基準収載の保険対象薬のみを使ってアトピー完治に導く、アオキクリニック二宮文乃医師に、漢方医学によるアトピー性皮膚炎の治療のポイントについてうかがった。
(太田聡)




保険対象治療で
アトピー性皮膚炎を治癒


●アトピー性皮膚炎の特長
(1)消化器系のバリア機能異常が主要因
(2)成人のアトピーは外因子が50%
(3)主に虚証・病期は進んでても陽明期


 皮膚、気道粘膜、胃腸粘膜のバリア機能の先天性脆弱が主要因と考えられる、過敏性皮膚炎と合わせ双方で疾患全体の80%を占める。
胃腸が弱いため偏食になりがちで、皮膚炎を助長する傾向に。従来は、大人になって胃腸が丈夫になると自然に治ったが、環境の変化により、一旦治癒したかに見えてたびたび再発する例が顕著。
外因子はいまや、食物添加物、ダニ、紫外線、住宅建材、ストレス、大気汚染などさまざま。通常いくつかのアレルゲンを重複してもつ。



●漢方による診断のポイント
(1)上部の湿潤に治頭瘡一方+桔梗・石膏
(2)その後、全身の治療を行う
(3)抑肝散でイライラを押さえる
(4)下半身の冷えを暖める
(5)小建中湯で弱った胃腸を回復


 アトピー性皮膚炎を治療する場合、標治療を優先させ、その後本治療に取りかかる必要がある。
標治療には漢方薬だけではなく、西洋薬との併用が効果的。
炎症を起こしている皮膚に黄色ブドウ球菌などが繁殖したり、酷い痒みがストレスとなり別の症状を引き起こすなど、二次的疾患を引き起こしているケースがほとんど。
このような場合には抗生物質もためらわず使う。酷いときには精神を安定させて、症状をいくらかでも軽くする。
抑肝散や柴胡剤を使い様子を見て、荊芥連翹湯などを使って全身の症状を軽快させると、本人の気持ちも晴れて協力的になり、以後の治療が進めやすい。



●治癒のポイント
(1)初診時に必ず少しでも改善
(2)皮膚科医と協力して治療
(3)本人の食生活・習慣の改善努力を促す
(4)夏季・冬季の症状の違いに注意


 患者は長患いに加えて、それまでの治療でかえって悪化させているケースが多く、極度の医療不審を抱いている場合が少なくない。
少しずつでも症状を改善していけば、患者の治そうという意欲もわく。
また、夏と冬の気候の違いによる病態に注意、冬に効いた処方が夏に効かなくなり途中で投げてしまう例も。
患者は既に漢方薬を試している例が多く、間違った処方で「漢方だって効かない」と不信感を抱いている。 本人の改善努力がなけれ寛解はまず無理。
そのためにも、的確な治療で少しでも改善に近づける。



本文
 幼児のアトピー性皮膚炎は、ほとんどの場合皮膚、気道、胃腸粘膜の先天的機能障害。小建中湯、黄耆建中湯を投与し、2週間ほどで寛解する例が多い。
より深刻なのは、小児から成人にかけての罹患。長患いにより、様々なアレルギー症状を併発、従来は平気だったものまで、どんどんアレルゲンへと転換する。
一旦軽快したように見えても、何年か経って再発したりする。
内因子、外因子ともに複合、複雑化してくるためで、アレルゲンも多岐にわたってくる。
一つ一つの病態を克服していくことで、徐々に疾患の本体を突き止めていく努力が必要となる。

 標治療をしてから、本治療に移るプロセスだ。
治頭瘡一方+石膏桔梗で、上半身、特に首から上の皮膚症状は改善される。
顔を最初に治すのは、毎朝顔を見る度に幻滅し、女性の場合特に外出できず、化粧もできないでイライラが助長させられるため、これを軽快させることで本人の意識を高めるという意味合いもある。

 次に、全身の皮膚症状を寛解させる。
ほとんどが虚証で冷える例が多く、下半身の冷えを取る処方をするとほとんどの症例で全体症状が軽快する。
当帰四逆加呉茱萸生姜湯などで冷えを取る。
物理的に足を暖めるだけで軽くなることさえある。全身が酷いときには白虎加人参湯や、麻黄の入った処方を使うが、2週間程度の様子見にとどめる。
それ以上の強い薬は使わない。

 症例の多くで荊芥連翹湯が奏功した。
また、夏の暑い時期に汗をかくと酷くなる例や、冬の乾燥時に悪化することもある。
暑い時期に酷くなる例には桂枝加黄耆湯を、冬の乾燥時には温清飲、当帰飲子などを用いた。

 全身の痒みが収まり、酷い痒疹が目に見えて軽快してくると、気分も楽になり、社会生活も復帰できる。 こうなると後は生活習慣の改善も促され、寛解は近い。



臨床例

【症例1:幼児】5歳、女児。
【現病歴】
 生後3ヶ月から発生する。抗アレルギー剤、抗ヒスタミン剤の内服。アルメタ、キンダーベート軟膏を使用していた。

【現症】
 全身に乾性皮膚炎があり、痂皮(カヒ)、糜爛(ビラン)、苔癬(タイセン)、紅い丘疹などが混在し、痒みが強い。顔面は紅斑が目立つ。神経質で臭いに敏感。消極的な性格。足が冷え、便秘気味。小食。

【腹証】
 両側腹直筋に緊張あり、特に左側著明。

【治療と経過】
 黄耆建中湯9.0g+アタラックスシロップ3t、2週間投与。
2週間後全身の皮膚炎は略消退し、痒みが消失。顔面の紅斑も減少した。さらに2週間投与。
以後1ヶ月に1回投薬する程度で寛解状態を保っている。
全身的には活発になり、よく食べるようになった。

●ワンポイント
 幼稚園でも運動しない、おとなしい子供だったが、消化機能が良くなり偏食や小食がなくなると活発になった。小建中湯でもよいが、湿潤面が見られたので黄耆建中湯とした。



【症例2:小児】9歳、男児。
【現病歴】
 3歳から発生し、喘息と鼻炎を合併する。兄もアトピー性皮膚炎がある。セルテクト、ザシテン、アタラックスなど抗アレルギー剤、抗ヒスタミン剤を内服。テオドールを喘息のため内服、ステロイド外用、亜鉛華軟膏などで加療。

【現症】
 全身に紅斑、湿潤性皮疹、丘疹、糜爛、痂皮混在。痒みが強い。鬱傾向。時に腹痛。くすぐったがり。手足が冷える。

【腹証】
 両側腹直筋に緊張がある。

【治療と経過】
 黄耆建中湯6.0g+黄連解毒湯2.5g。1ヶ月の服用で皮膚炎は大変よくなった。
2ヶ月後、喘息が出始めた。
黄耆建中湯6.0g+小青竜湯6.0g。1日4回で服用させた。
皮膚炎、喘息とも経過はいいが、疲れると皮膚炎、喘息が交互に発生する。以前のような増悪傾向は見られず、数日で軽快する。

●ワンポイント
 黄耆は補気作用とともに、湿潤を取り、化膿症状を除き、皮膚を正常化する。固表止汗作用を持つ。黄耆建中湯は、小建中湯と同じく脾虚を補うので、食欲が進み、元気に運動するようになり、皮膚炎はよくなった。



【症例3:成人】20歳、女性。
【現病歴】
 13歳から発生するが、その1年前に初潮となる。中耳炎、じんましんの既往歴がある。アタラックス、ペリアクチン、荊芥連翹湯を1年半内服し、外用治療を行っていた。

【現症】
 全身に紅斑と苔癬、湿潤性皮膚炎が混在する。一部は痒疹となる。痒みが強い。顔面は紅斑、湿潤性皮疹がある。

【腹証】
 腹力中程度。

【治療と経過】
 治頭瘡一方5.0g+桔梗・石膏4.0g+セルテクト20rを投与。
4週間後、顔面の紅潮、湿潤性皮膚炎は消退する。 荊芥連翹湯5.0g+桂枝茯苓丸意苡仁(注1)5.0g+セルテクト20rに変方する。
2ヶ月後、全身の紅斑、丘疹、落屑は軽快するが、四肢の痒疹が著明である。
越婢加朮湯7.5g+桂枝茯苓丸意苡仁(注1)7.5g+セルテクト30rを投与する。
4週間後、痒疹は消退し扁平化する。全身の浅黒い皮膚炎が軽度に見られる。
荊芥連翹湯7.5g+桂枝茯苓丸意苡仁(注1)7.5gを続服し、初診以来4.5ヶ月で成人式を迎え、化粧をし振り袖が着られて若い女性としての喜びを味わった。
 以後、アトピー性皮膚炎の抑鬱から離れられ、寛解状態が続くが、発汗と紫外線を浴びたときや疲労したときなどに部分的に発症するので、1〜2ヶ月に一度来院し、内服薬と紫雲膏を持っていく。

●ワンポイント
 アトピー性皮膚炎の痒疹は難治なもの。苔癬の強いもの、痒疹は慢性増殖した皮膚の肥厚なので、ケロイド、ポリープにも有効とされる越婢加朮湯と駆於血(注2)作用のある桂枝茯苓丸に意苡仁(注1)を加えて、角化肥厚を除く力を強めた。
 4〜6週間の使用で痒疹は扁平化する例が多い。その後、他部位の皮膚炎の症状に適応する処方に変方するとよい。


【注1】意苡仁:ヨク・イ・ニンのヨクは正しくは「くさかんむり」に「意」。
【注2】於血:オ・ケツのオは正しくは「やまいだれ」に「於」。



【症例4:成人】27歳、男性。

【現病歴】
12歳から発生。小児科で加療する。抗ヒスタミン剤を内服、ステロイド外用をしていた。

【現症】
全身に角化、肥厚、鱗屑、痂皮と紅斑が混在し、乾燥が強く、痒みが激しい。食欲はあり、便秘(-)、夜眠れない。

【舌証】
湿、無苔。
【腹証】
臍(ヘソ)上悸がある。
【検査所見】
IgE-Rist12750IU/ml、好酸球24.1%(白血球5500)、LDH580↑(正常値:208〜442)、赤血球415万↓(正常値:427〜570)、ヘモグロビン12.7g/Dl↓(正常値:13.5〜17.6)、ヘマトクリット38.6%(正常値:39.8〜51.8)。

【治療と経過】
十全大補湯7.5g+黄連解毒湯2.5g+ワイパックス1錠を投与。
2週間後、かなりよい。紅斑は減少し、角化・肥厚・苔癬も軟化してきた。
同方を続ける。1ヶ月後、紅斑は殆ど消失したが四肢の痒疹が強い。盗汗があり汗が出ると痒い。
桂枝加黄耆湯6.0g+黄連解毒湯2.5gを投与。
4週間後、全体に軽快し、痒疹も減少した。
秋から冬の乾燥期は、荊芥連翹湯7.5g四物湯7.5gを2週間分投与を2ヶ月間で内服し、寛解を保っている。
●ワンポイント
乾燥と角化が激しい、松の幹のごとき状態であったが、初診より4ヶ月後には顔面、躯幹の皮疹は消失した。しかし、四肢は難治で、軽快した程度である。その後、秋には荊芥連翹湯と四物湯に変方して、痒疹は軽快し全体の乾燥状態もよくなった。
本例は貧血があるので、食事指導を強く行った。初めは反抗的であったが、再診時に軽快するとともに、笑顔で話をするようになり、皮膚炎はなくなった。




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●表:アトピー性皮膚炎の年齢別症状のエキス剤治療
部位・症状 使用エキス剤
乳児期 頭部・顔面の湿潤
全身の皮膚炎
治頭瘡一方
小建中湯、黄耆健中湯、五苓散、抑肝散加陳皮半夏
幼小児期 頭部・顔面の湿潤
苔癬、乾性皮膚炎
湿潤と紅斑
治頭瘡一方
補中益気湯、柴胡清肝湯、六味丸、小建中湯、当帰飲子
消風散、桂枝加黄耆湯、黄耆健中湯、抑肝散加陳皮半夏
思春期
成人期
顔面紅潮
紅斑、苔癬、痒疹
湿潤、糜爛
乾性皮膚炎
白虎加人参湯、治頭瘡一方加桔梗石膏、黄連解毒湯
温清飲、荊芥連翹湯、柴胡桂枝湯、竜胆瀉肝湯、十味敗毒湯
越婢加朮湯、消風散、排膿散及湯、治頭瘡一方、桂枝加黄耆湯
当帰飲子、四物湯



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