●第4号(1997/2/25)――【8面】◆漢方医学研究最前線
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古典崇拝から脱却し科学的進歩を生かした医学へ
群馬大学 丸山悠司教授 ●西洋医学と漢方医学の融合のための条件 ●漢方医学と西洋医学の融合に寄せる期待 ●柴朴湯の抗不安作用発現成分の特定研究 |
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西洋医学と、漢方医学の長所を採択した医療の確立というのは、可能なのだろうか。 否定的な意見が多い中で、近年、この分野の研究が徐々にだが進展を見せている。 今回は、群馬大学医学部で、東西医学の比較論などについて講義を行っている神経精神薬理学教授丸山悠司博士に、東西医療の融合という点について、その可能性、研究の世界的な現状などを聞いた。 (太田聡) ●西洋医学と漢方医学の融合のための条件 (1)漢方薬の作用機序の解明 (2)「証」決定プロセスの科学的裏付け (3)漢方治療による再現性・普遍性の実現 現代医療に適切に漢方医学を取り入れるためには、科学的解明が絶対条件。西洋近代医学が現代医療の主流になったのは、科学的発展を進め、治療の再現性・普遍性を確立したから。これまでの漢方医学は哲学に偏るあまり、科学的解明を怠ってきた。現実的に科学的分析が難しい面もあったが、近年の分析学の進歩により、漢方薬の複雑な作用機序の解明も可能になってきている。 ●漢方医学と西洋医学の融合に寄せる期待 (1)化学薬品の副作用の低減 (2)病名不明疾患に対する治療 (3)漢方治療のマニュアル化 漢方薬には、本来の疾患の治癒に必要のない生薬も含まれる。これは、あらかじめ分かっている副作用に対する予防薬としての役割や、疾病により弱った活力を補うなどの役目があると考えられる。こうした発想は現代化学薬品にはなく、実際、ある種の漢方薬が強い薬品の副作用を抑制する効果が確かめられている。 ──漢方医学を現代医療の中に適切に取り入れていくためには、どのようなことが必要でしょうか。 丸山 私が最初の授業で必ず講義するのは、「科学とはなにか」です。人の頭脳機構にはアーティスティック、フィジカル、メタフィジックの3要素があり、フィジカル(科学)はこのうちの一つの要因にすぎないのです。したがって万能ではなく、ものの考え方の一側面にすぎないこと、必ず限界があることを、まず確認してもらうためです。東洋医学と西洋医学の比較論を展開する上で、科学万能の思いこみを最初の認識へ戻す必要があるからです。 同時に、漢方医学に傾いている人にも同様の視点が必要でしょう。漢方のベースはメタフィジック(哲学)にあるという考え方が支配的で漢方医学をそうした側面にのみ包含しようとする偏った見方があります。東西両医学の融合を目指す上で、この点、発想の転換が迫られています。一方、医学が科学に過度に偏った姿が、哲学を失った現代医療であることも否定できません。しかしながら、そもそも日本における医療が、結果的に西洋医学に取って代わられたのも、科学的視点による医学の展望が西洋医学に対し立ち遅れていたからだといえるのです。 したがって、漢方医学を現代医療の中で、適切に取り入れていくためには、科学の言葉で漢方を表現していく必要があります。 漢方医学は今のような道具がなかった時代の科学であるといえます。優れた機械や器具、検査・分析方法がなかった時代に苦心惨憺して作り上げたものなのです。逆に言えば、2000年間の経験的事実を、漢方医学の展開に応用しない手はないのです。 漢方医学を現代医療の中に適切に取り入れていくためには、漢方薬の科学的解明を進め、治療効果の機構・再現性・普遍性を追求していかなければなりません。そして、それは現代科学の新たな応用法に期待することができます。 ──東洋(漢方)医学と西洋医学の融合は、可能でしょうか。 丸山 東洋(漢方)医学と西洋医学の融合は可能だと思います。一見土俵が違うと思われる両医学とも、患者を治そうという目的に違いはありません。 発展の仕方は違いますが、人間のやることです、発想や目的については大きな違いはなく、ある疾病の治療に対して結果的に同じ方法を使っているということも少なくありません。 たとえば、漢方薬の歴史の中に、人間の尿を昇化処理して出来た結晶というのがあります。なにやらオカルト的ですが、女性の体調を改善する妙薬とされるこの薬も、一種の「ホルモン剤」だということが現在の科学で確かめられています。現代医学でも女性の体調が優れないときにはホルモン剤を投与しますが、方法は違っても同じ結果を求めていたわけです。 ──漢方医学と西洋医学が融合することで、医療にどのような変化が期待できますか。 丸山 新たな可能性として、いくつかの点が挙げられます。 第一に、化学薬品による副作用の抑制に漢方薬が有効であるということです。現代の化学薬品はほとんど単一物質で、薬理作用もはっきりしており、特定の病態に対する治療効果は明解ですが、必ず副作用の問題がつきまといます。例えば抗ガン剤による脱毛、鎮痛剤の多用による退薬症候群(禁断症状)などに、特定の漢方薬が効果をあげることが分かってきました。 第二に、病態のはっきりしない疾病に対する治療。今の世の中にある病気で、病名が確定しているのは、実は20%程度だといわれます。現代医学ではおそらく何年経っても、全ての疾病に病名をつけることは不可能でしょう。病理の構造はいずれ解明するとしても、それまでに目前の患者を治療することが優先されるべきで、その点漢方医学は原因が不明でも治癒に導くことができます。 ──漢方薬の化学的解明はどこまで進んでいるのでしょうか。 丸山 基礎医学的には各方面で研究が進んでいます。どの漢方薬が、どういう症状に有効かという総合効果の点についてです。わからないのは各成分の相互作用です。漢方薬は少ないものでも物質的には数千もの化学的成分が含まれています。それぞれの成分がどのような働きをしているかさえ、まだよく分かっていません。そのうえ、それぞれの成分が複雑に作用し合い、薬理作用を高めたり、逆に強すぎる作用から身体を守ったり、という複雑な要素が内在しており、解明を遅らせてきました。 今までの分析方法が、漢方薬の複雑な作用を解明するのに向かなかったといえます。漢方薬の作用機序を解明するための新しい方法を作っていかなければなりません。 この方面の研究者も多く、その方法の解明を進めており、徐々に成果が上がってきています。遠くない将来に、漢方薬の作用機序の多くが判明することができそうです。 |