●第4号(1997/2/25)――【9面】◆漢方医学研究最前線
柴朴湯の抗不安作用発現成分の特定研究

漢方薬の作用機序の解明が進む


群馬大学
丸山悠司教授




●西洋医学と漢方医学の融合のための条件

●漢方医学と西洋医学の融合に寄せる期待

●柴朴湯の抗不安作用発現成分の特定研究



line.gif  群馬大学医学部丸山教授らの実験で、柴朴湯に含まれる抗不安作用物質が、脂溶性の高い非極性の低分子化合物であることが分かってきた。
このように、漢方薬のどの成分がなにに効果があるのかという「作用機序」の解明が、各研究機関で成果を上げ始めている。
(太田聡)




●改良型高架式十字迷路装置による柴朴湯の抗不安効果発現成分の探索(注1)
栗原久、森田誠、石毛敦、林紘司、丸山悠司各氏
1996年9月発表論文要約

【目標】
柴朴湯(注2)に含まれる抗不安作用物質の特定。機序の解明。

【実験方法】
高架式十字迷路装置(注3)を改良し、オープンアームを透明アクリル版にした改良型装置を使用。マウスに柴朴湯を投与し、オープンアーム上での滞在時間を測定した。この際、柴朴湯を第一次分画成分、第二次分画成分とに分け、作用成分の特定を行った。さらに、ジアゼパム(ベンゾジアゼピン系抗不安薬)とビククリンとの併用投与による変化の解析を行った。

【分画法】
第一次分画(注4)により柴朴湯の成分をF1〜4に分画。F4をさらに第二次分画(注5)により4分画しF4-1〜F4-4の4つの成分を得た。

【実験スケジュール】
十字路の中心に、クローズドアーム側に向けてマウスを静かに置き、5分間にわたってオープンアームでの滞在時間の累積を測定した。 薬物は柴朴湯、第1次および2次分画成分とも、1日1回、7日間にわたって投与。最終投与日の翌日に実験を行った。また、ジアゼパム、ビククリンの併用投与に関しては、これらの薬物を実験開始10分前に投与した。

【自発運動】
動物には勝手に動き回る習性(自発運動)があることから、薬物の効果ではなく自発運動による移動の可能性が考えられる。このため、それぞれの実験終了毎に自発運動の測定を行ったところ、いずれの実験でも問題となる自発運動の変化はなかった。



【考察】
柴朴湯および第1次分画成分のF4(注5)に抗不安効果の増強が認められ、また、ジアゼパムとの併用投与実験でベンゾジアゼピン系抗不安薬の抗不安効果を有意に増強することが分かった。さらに、F4を分画した4つの成分の中で、非極性成分の集約度が高いF4-1に、顕著な抗不安効果が認められた。抗不安効果が発現するためには、なんらかの化合物が血液−脳幹間を通過し、中枢神経に影響を及ぼさなければならない。血液−脳幹間を通過し、かつ抗不安効果の発現因子として考えられる化合物は、脂溶性に富む非極性の低分子化合物質と類推される。さらに、GABAA/ベンゾジアゼピン受容体複合体を介して薬理作用を発現する抗不安化合物であると推定される。





1. 柴朴湯および第1次分画成分の単独投与
【図1】


柴朴湯および第1次分画成分の抗不安効果
 オープンアーム上での滞在時間の有意な延長は、柴朴湯およびF4の投与によってのみ認められ、しかもF4投与群のオープンアームでの滞在時間は柴朴湯投与群の118%であった。

2. 柴朴湯および第一次分画成分とジアゼパムとの併用投与
【図2】


柴朴湯および第1次分画成分とジアゼパムとの併用効果
 ジアゼパムはオープンアームでの滞在時間を顕著に延長した。ジアゼパムの効果を柴朴湯は増強する傾向があり、F4は有意に増強し、オープンアームでの滞在時間は。ジアゼパム単独投与群に対してそれぞれ148%および299%であった。F1〜F3とジアゼパムとの併用投与では、効果の修飾は認められなかった。

3. 柴朴湯および第1次分画成分(F4)とビククリンとの併用投与
【図3】


柴朴湯および第1次分画成分(F4)とビククリンとの併用効果
 ビククリンの単独投与はオープンアームでの滞在時間に影響を及ぼさなかったが、柴朴湯およびF4の抗不安効果を有意に減弱し、オープンアームでの滞在時間はそれぞれの単独投与群の27%および42%に減少した。自発運動量は、ビククリンと柴朴湯あるいはF4併用投与群は、それぞれ単独投与群の66%および75%と有意に減少した。またビククリンの単独投与によっても、自発運動量は対照群の81%に減少した。

4. 柴朴湯の第2次分画成分の単独投与
【図4】


第2次分画成分の抗不安効果
 F4-1およびF4-2の投与により有意な抗不安効果が認められ、オープンアームでの滞在時間は柴朴湯投与群のそれぞれ75%および38%(F4投与群のそれぞれ64%および33%)であった。しかし、F4-3およびF4-4の投与では抗不安効果は認められなかった。

5. 柴朴湯の第2次分画成分とジアゼパムとの併用効果
【図5】


第2次分画成分とジアゼパムとの併用効果
 F4-1およびF4-2はジアゼパムの抗不安効果を有意に増強し、オープンアームでの滞在時間はジアゼパム単独投与群に対していずれも198%に達した。しかし、F4-3およびF4-4の投与はジアゼパムの効果に著しい影響を及ぼさなかった。自発運動については、F4-3とジアゼパムの併用投与群はF4-3単独投与群を有意に上回ったが(138%)、ジアゼパム単独投与群からは有意でなかった。その他の併用投与群では、著しい自発運動量の変化は認められなかった。

6. 柴朴湯の第2次分画成分(F4-1)とビククリンとの併用効果
【図6】


第2次分画成分(F4─1)とビククリンとの併用効果
 F4-1の抗不安効果はビククリンによって有意に減弱され、オープンアームでの滞在時間はF4-1単独投与群の17%に減少した。F4-2の投与では軽度な抗不安効果が認められたにすぎず、F4-3およびF4-4の投与では有意な抗不安効果が認められなかったので、これらの第2次分画成分とビククリンとの併用効果の検討は行わなかった。





【注1】
 丸山博士らは前回の実験で、漢方製剤の抗不安効果を調べた(1996年3月発表)。不安神経症や、神経症、あるいはそれらに伴う各種精神・身体的症状に用いられる漢方薬4種類、神経系の治療には用いない漢方薬1種類、比較のための蒸留水をそれぞれ投与した6群のマウスによる抗不安効果の実験を行った結果、柴朴湯に最も有意な用量依存性が認められた。さらに実験を進めるために、柴朴湯に注目し、装置を改良して取り組んだもの。



【注2:柴朴湯】
 実験に使用したのは「ツムラ柴朴湯」(TJ−96:2g)。



【注3:高架式十字迷路装置】
 側壁で囲ったクローズドアームと、平板だけのオープンアームを十字に交差させ、台座に固定し宙に浮かせたもの。十字路の中心にマウスを置くと、出口を求めてさまようが、オープンアーム側には怖いのでなかなか行かない。ここで抗不安剤を投与すると、不安が取れてオープンアーム側にも移動するようになる。オープンアームでの移動距離・滞留時間を調べることで抗不安剤の効果の程度が比較できるというのが、今回の実験。



【注4:第一次分画】
 柴朴湯(60g)を500ml、60℃の温水に懸濁した後、3000rpmで10分間遠心分離し、沈殿物(水不溶分画)を凍結乾燥した(F1)。上清にエタノールを加えて60%溶液とし、3000rpmで10分間遠心分離して得られた沈殿物(エタノール不溶分画)を凍結乾燥した(F2)。上清のエタノールを蒸発させて濃縮した水溶液に、体積比で1/4量のクロロホルムを加えて4回分配し、水層移行成分を凍結乾燥したもの(F3)、およびクロロホルム層移行成分を減圧濃縮した(F4)を得た。



【注5:第二次分画方】
 F4成分をクロロフォルムとシリカゲル溶液で展開し、さらに4つの成分を分画した。



【注6:F4-1】
 F4には精油成分、中性化合物、低級脂肪酸、2・3級アルカロイドが抽出配分されることが経験的に分かっている。






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