●第5号(1997/3/25)――【3面】◆菊谷豊彦氏インタビュー(2)
エキス製剤の漢方処方応用の確立急務


●菊谷医院・院長
医学博士
菊谷豊彦先生







line.gif 漢方薬の薬価基準削除問題に警鐘

 現実の医療現場では、漢方医学はどのように実践され、また、漢方薬は正しく使われているのか。
 さらにエキス製剤を使った漢方治療は、古典などの煎じを中心にした使い方と一緒でいいのか。
 漢方専門医として、医師会活動、各種保険審査委員、中央薬事審議会委員などを勤めた菊谷豊彦博士に聞いた。
(聞き手:太田聡)



●現代の漢方医学
1.専門領域の分科進む
2.耳鼻・小児・泌尿器・婦人各科で著しい
 現実の医療の中では、各専門領域への分科が進んでいる。現代医学に漢方医学が浸透してきたためだが、これにより本来全体医療である漢方医学が、日本では分科している。しかし、現実の医療で役立たせるためには、分科が必要であり、それにより研究、臨床応用も進んだ。


●エキス製剤の使用について
1.エキス製剤による漢方の確立急務
2.一部生薬は作用が減弱していることに注意
 漢方医学は煎剤を基に考えられている。エキス製剤は生薬の加減にも難があり、一部生薬は作用が減弱している。エキス製剤による漢方医学を構築する必要がある。


●漢方医学を修得する心得
1.投与した薬と患者の状態をみる
2.漢方医学の成書と患者の状態を見極める
 最初は病名漢方でも、投与した薬について書いてある成書と患者の状態を往復してみる。常に患者の状態を診て、どのような状態に、どの薬を投与していくか臨床を繰り返す。


 ──漢方薬は多くの医者が使うようになりましたが、正確な漢方医学に関する知識のもとに使われているのでしょうか。

 菊谷
 今から15、6年前、漢方薬が保険診療対象となった当初は、いわゆる「病名漢方」がほとんどでした。それが、だんだん漢方医学の知識が普及していき、ここ5、6年は充実してきていると言っていいでしょう。特に、耳鼻科、泌尿器科、小児科、婦人科などでの漢方治療はかなり高進したと思います。薬価基準に漢方薬が収載されてから、多くの医師が使うようになりましたが、漢方薬のみが認められて、結果西洋医学的診断に基づいて漢方薬が処方されるという問題が起こりました。しかし、使われていく内に、効果があるケースと、効果がないケースが出てきて、医者の方でも漢方薬が漢方医学による診断によって処方されて始めて有効なのだということが分かってきたのだと思います。


 ──漢方医学の考え方からすると、科というのは存在しないのではないですか。

 菊谷
 現実の医療では漢方医学であっても各医学領域の診療科は存在しています。現在の医療システムのなかで、スムースに治療が行えるようになるためには、分科することはさけられないのです。そして、それは決して間違ったことではありません。現代の医療では、各科の専門医が治療するようになっていますし、患者に対して、西洋医学、漢方医学を含め、最善の治療方法を判断していくというためにも、各科の医師が専門領域での漢方医学を修得していくということは必要です。また、臨床研究の高進という意味でも、専門分野に分科していくことは必要です。したがって、今後も分科は進んで行くでしょう。


 ──現実の医療ではエキス製剤が使用されています。エキス製剤だけで、漢方医学による治療が滞りなく実践できるのでしょうか。

 菊谷
 保険診療で扱えるエキス製剤は146処方しかない。少なくとも200処方は必要です。そもそも漢方医学は煎剤を基本に考えられており、実際の処方と異なります。エキス製剤は煎剤と異なる点があるのです。一つは生薬によっては加工の段階で効果が弱ってしまうものがある。例えば「附子」は、減毒した上に熱を加えており、効果が弱くなっているように感じます。また、地黄のように「熟」と「乾」が用い分けられていることもある。エキス製剤を使った漢方的治療の「臨床研究」を行っていかなければ、現実の医療では完全といえません。二つ目の問題点は、加減ができないということです。化学薬品と違って、漢方薬は処方全体の量を調整すればいいのではなく、含まれている生薬を、症状などによりそれぞれ加減してくことによる「複合効果の妙」が真髄。この点、加減のできないエキス製剤は、使い勝手に難があります。生薬単体のエキス製剤ができれば、この二つの問題はある程度解消できるのですが、生薬エキス製剤は認められていません。


 ──今後、漢方医学が特に期待される分野とは。

 菊谷
 高齢者医療です。高齢者の疾病は多愁訴、多症状にわたります。化学薬品単体ではなかなか効果が現れません。そもそも、西洋薬には「補う」という考え方がなく、高齢者医療には難があります。


 ──漢方医学を修得するこつというようなものはあるのでしょうか。

 菊谷
 最初は病名治療でもかまわないと思います。そのままでは困りますが、患者の状態を見て、投薬する薬を変えていき、最終的に患者にもっともあった処方を決定していくというプロセスを踏むことが大事なのです。漢方医学を心得ている医師でも、この往復のプロセスそのものは同じなのですから。かえって、本だけ見て勉強しても、現実の臨床とは必ずしも一致しないし、実際にこのプロセスを踏んでいかなければ本当の知識は身に付きません。
 古典の知識は、基礎としては必要ですが、必ずしも臨床とは一致しません。なぜなら、2000年、1000年前の中国と、現在の近代化社会では状況が全く異なるのですから当然です。当時は公害もなく、食品添加物もありません、生活習慣もかなり変わってます。生薬の品質も、当時と今と全く同じとは言い切れません。
 漢方の基本は、古典だけではなく、患者の状態と、投薬した漢方薬の効果を見極めていく過程だということを、覚えておいてもらいたいと思います。







菊谷豊彦先生・プロフィール
1933年生まれ。
1959年 東京大学医学部卒。
1960年 東京大学医学部付属病院物療内科入局(〜1961年)。
1962年 国立伊東温泉病院内科勤務(〜1973年)。
1963年 東京大学医学部付属病院物療内科文部教官助手(〜1967年)。
    社団法人東京都教職員互助会三楽病院内科医長(〜1972年)。
1965年 東京大学医学部付属病院物療内科研究生(〜1967年)。
1967年 東京大学で医学博士の学位を授与。
1971年 中央薬事審議会臨時委員(〜1986年)。
1973年 菊谷医院開業。
1981年 昭和大学薬学部兼任講師(〜1996年)。
1984年 社会保険診療報酬請求書特別審査委員会委員(〜1996年)。
1985年 国民健康保険診療報酬特別審査委員会委員(〜1996年)。
1985年 和漢医薬学会評議員(〜現在)。
1985年 神奈川県国民健康保険診療報酬審査委員会委員(〜現在)。
1988年 中央薬事審議会臨時委員(〜現在)。
1991年 漢方エキス製剤の臨床再評価方法に関する研究班班員(〜1994年)。
1994年 東京大学内科総合外来担当(〜1996年)。
1991年 社団法人日本東洋医学会評議員、認定医、指導医(〜現在)。

 漢方専門医として、治療、臨床研究を続ける一方、学会活動を通じて漢方医学の普及に貢献した。
 1983年には「漢方保険診療指針」(日本東洋医学会)の編集責任者として活動。
 各種保険審査委員会委員を歴任し、漢方の保険診療の適正化に尽力した。
 著書多数、メディアにも積極的に登場し、漢方医学の普及に努めた。
 これらの功績を受けて、1996年11月、日本医師会より「最高優功賞」の授与を受ける。





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